東京ヒズミランド 作者:オギ
鏡は監視カメラです。一日にニ回、とびきりの顔で笑いかけます。
ここは広くてあたたかい、緑と花で満たされたガラスのドームです。真ん中には小さな遊園地があり、大きな観覧車が静かにゆっくりと回り続けています。
緑に埋もれた家は潰れたケーキに似ています。三角で三段で白い。四歳からここにいます。
住人は子供ばかり。ニ割は自分を特別だと信じていて、三割は頑なになにかを信じ、一割は絶望しています。なにも信じていない残りの四割が、空白の住人と、本物の天才と、私たちです。
テレビもラジオも電話もないけれど、食べ物や着る物には困りません。管理人は見えないけれど、たぶんそこらにいるのでしょう。
誰かが歌い、踊り、叫び、ピアノを弾いています。小さなブロックを積み上げ、透明な境界を掻き続けています。
森は迷路に似ています。眠るのは好きではありません。
観覧車のてっぺんからは外が見えます。あおぞら。あかいつち。暗くなれば遠くに、こぼれ落ちた星のようなあかりが見えて、だからあそこには人がいます。
告白 作者:まつじ
私は実はどうしようもない善人なのです。
と言ったのに誰も信じちゃくれない。
ただただ、孤独になる。
煙 作者:峯岸
食事の時間になり料理が運ばれてくる。アペリティフのキールに手を伸ばす王を制し、まずは執事がグラスを空にすればたちまち息を引き取る。アントレのすべての品に対しても執事が一人ひとり端正に検めれば順繰りに命を落としてゆく。
ポタージュの表面を軽く撫でたスプーンを口にくわえたまま執事は斃れる。柑橘系のグラニテを舌に乗せただけで執事は不帰の人となる。牛フィレのステーキはそれを口にした執事を昇天させる。空腹に耐えかねた王がパンに手を伸ばすも執事がそれを奪い取りすぐさま齧り付いてはこの世に別れを告げる。サラダを食べた執事の心音が途絶える頃には、用意された数種類のドレッシングを確認した執事らもすべて事切れている。
食器類が片付けられると王の前には色とりどりのプティフールが並べられ、それぞれを執事が口に含んでは天に召されてゆく。香しい紅茶が注がれ、やはり執事が口をつけた途端に黄泉の客となる。
王は今日も食事にありつけない。部屋を埋め尽くす屍体の山を見据えながら王は懐から拳銃を取り出し銃口をこめかみに当てる。後ろから現れた執事が王の手から拳銃を取り上げると、銃口を自らの口に銜えトリガーを引く。
床に落ちた拳銃から静かに立ち上る煙を王は見るともなく眺める。すると煙がぼんやりと女の顔になる。すうーっと近付くと王にキスをする。途端、がくりと力なく天井を見上げ王は永久の眠りにつく。かくして暗殺は成功に終わる。
K 作者:ぶた仙
「古き絵や 逢わず
−K」
空き巣の残したメッセージはそれだけだった。いや、怪盗というべきか? というのも、大学生の娘の部屋に入った形跡は明らかなのに、盗まれたものが見つからないからだ。メッセージからすると、なにやら古い絵を捜したと思われるが、心当たりはない。
翌日、娘に菊の花が贈られてきた。カードには、
『老いしある 永遠を問う わが肝に』
と書かれてある。娘が参加しているボランティアサークルの関係だろうか? ともかくも、この十七文字を見て、それまで怯えていた娘が急に元気を取り戻した。
夜、ふと見ると、軒先に短冊が吊るされている。
『恋敵は 秋駆けて 彼方に聞く』
絵柄はキウイ。恋敵とは穏やかでないな。そう思った矢先、今度は芭蕉の花が贈られて来た。
『酔えれば 夏憂さの苦 七色に射て』
翌日、娘は突然旅に出かけた。旅先から届いた世界遺産の絵ハガキには三句だけが書かれてあった。
『恋いしかる 経験を説く わが妹に』
『追い難いは愛 敢えて貴方に言う』
『よければ 夏草の 卯七キロに来て』
なるほど、キウイは「行く気」という意思表示だったのか。
何も気付かなかった私は、娘の幸せを祈るしかない。





