東京ヒズミランド 作者:脳内亭
「ヒズミランド、ヒズミランド」
と、二歳になったばかりの息子が何度もそう口にする。ならば誰が何といおうとここは東京ヒズミランドだ。
「チューチュ、チューチュ」
うん、チューチュがテーテをふってるね。ワンワンもガーガもいるよ。
「ジージ、ジージ」
そうだね、チューチュの背中がジージってひらいたね。
「ウーカンカン、ウーカンカン」
ほんとだ、中からウーカンカンが出てきた。手にグシグシ持ってるよ。グシグシでみんなをコッコローンしてるよ。
「クデンシャ、クデンシャ」
うんうん、ガーガがクデンシャ吐き出したね。ワンワンもあんな楽しそうにみんなをポリンポリンして、とってもにぎやかだね。何、アッコするの? はい、これでよく見えるよ。あっちもこっちも、みんなもうすっかりババーパだらけだよ。
「バッコチャン、バッコチャン!」
わあすごい、ほんとにバッコチャンだ。おっきなクーチーだねえ。あ! ほらほら、バッコチャンこっち見てワラってるよ!
「コッチクル、コッチクル!」
コッチクル、コッチクル!
告白 作者:氷砂糖
本当のことはそっと小瓶に入れる。金平糖のようなそれは、ときどき取り出して舐めるけれど、甘い香りでひどく苦い。嘘を着飾る舞踏会。踊って喋って笑顔のままに帰宅、ドレスも顔も脱ぎ捨てて、独り本当のことを小瓶にまた一粒。普段はベッドの下に隠している。
ママからお嫁にいきなさいって言われました。相手はよく知らない人なんだけど、あっというまに準備はできて、白い嘘を纏ってお嫁入り。小瓶を荷物に加えていたら、なにその小汚い瓶、とママ。置いていきなさいと言うのを聞かず、小瓶を抱いて馬車に乗る。今夜からは大きなお屋敷がお家。主人は人が良さそう。笑顔。夜になり一つのベッドにいる。
「あなたといると楽しい」
主人はそう言って目を閉じた。寝息。小瓶を眺め、枕の後ろに隠す。暗闇に目を閉じる。安堵。寝息。
朝、召使いが紅茶とスコーンを持ってきて目が覚める。並んで食べる。枕がずれていて、主人が小瓶を見つけ、開け、ためらいもせず口に一粒。
「本当のこと、知りたいからちゃんと言って」
主人にぐっと抱き寄せられ、もう増えない金平糖と、食べかけのスコーンと、紅茶がこぼれ散らばって、差し込む光も優しくって。全部、嘘ならいいのに。
煙 作者:砂場
刈り込んである紫陽花の枝を這うナメクジから顔を上げるとそこに立っていたのでぎょっとする。見ない子どもである。迷い子だろうとわかったが、それだけだろうか。さまよううつろな目、やせぎすな顔つき。名ばかりの春の冷たい風に倒れそうに見えたので、縁側に座らせた。本人が靴を脱ごうとせず、せめてもと私のジャンパーを羽織らせる。妻が、ココアとおにぎりを持ってきた。黙々と食べる。私は庭仕事の続きを少しする。食べ終わると、ふっくらとしている。背まで伸びたように思い、別の子どもかと思った。兄が迎えに来て、弟と入れ替わって座っているのかと思った。「どこから来たの」「丸くて細長いところ」まるでなぞなぞである。「一人で帰れるか」「帰るんじゃなくて行くところ」「どこに行くんだ」首をかしげている。つと立ち上がり、ひょこひょこと走って庭を抜けていく。追いかけて道に出ると、あちこちの家から自分と似たような大人と、子どもが飛び出してくるところだった。時差のある万華鏡のようだ。なんだかあっけに取られたまま大通りまでついて行く。子どもたちは軽やかに大通りの坂を上り、あっという間に見えなくなった。
K 作者:峯岸
強烈なボディで体がくの字に折れるとそこを見逃さずラッシュ、なす術がなくコーナーを背にしたまま腰から崩れようとしている。





