初めに
このたびは楽しい企画のお仲間に入れて下さいましてありがとうございます。また、「ささもと賞」なるものまで設けていただきまして大変恐縮でございます。どうもありがとうございます。
♦ささもと賞♦
<香りの1>さん 『鴎の百年目(ラプサン・スーチョン)』
このお茶の個性をきわだたせるキーワードが気持ちよくちりばめられていて、とても素敵でした。節々でゆらぎ、その中には堅くきっちりとした高貴な部分がある、そういった色づかいも好きです。サイズ(お話全体の流れ)もまた美的なものを感じさせるコンパクトさだと思いました。
ところで、文中の「壷」という漢字から視覚的にただようラプサン臭にお気づきの方はいらっしゃいますか? 私は発見しました。なんてラプサンくさい文字でしょう。まじまじと見つめ、この文字だけフォントサイズを拡大してみたり紙に書いてみたり、すっかりこの文字のとりこです。(注:ゴシックで36ポイントに拡大するとキョンシー帽のようにも見えす)
こちら様の壷は「ジャズの壷」ときてる。
「沸いて」「海老の胴体」「タールが注がれる」
グルメ的好奇心をそそる一文に乾杯です。
その他の作品につきまして
せっかくの「香り」というお題ですので、そのフレグランスのキャラクターをにおわせることに情熱をかたむけていると思われる作品を何点か選ばせていただきます。
<香りの4>さん 『シトラスボタン』
<香りの17>さん 『フィオルッチのラブスユー』
こちらの二作品は、ボトルを手に取りたくなるようなフレーズが多くて、かわいらしかったです。フレグランスへの愛着も感じました。
『シトラスボタン』
少女のコロンから香るはかなさと、レモン色の世界が伝わってくるようなそのやさしさに、心があたたまりました。ちょっとだけ迷ってしまったのは、「世界」をメルヘン(子供側)に傾けるか、現実(大人側)に傾けるか。
以下は片寄った個人的な案ですが・・・
現実的なラストですが、もしかすると、おもいきり子供の世界に飛んだまま、そのままで終わりにしちゃうのも楽しいかもしれません。おもちゃを散らかしっぱなしの子供みたく。そうしたら心置きなくメルヘンに傾けて嬉しいです。サイズ的にもラストでまとめずに「子供」をつらぬくスタイルのほうが似合いそうな予感がします。
『フィオルッチのラブスユー』
こちらもかなり好きな作品です。彼にもらったハート型の香水ビンがランドセルから出てきちゃうのが不思議でかわいい~真っ赤なランドセルの中にあのボトルがごろんと入ってるなんて、かわいくてたまりません。両者は不思議と似合いますね。
「どこに振りかけようかと考えていたとき、電車が揺れた。香水ビンは手からすり抜け、転がり、足元に見えなくなった」という展開が特に好きです。(…たしかにあれは子供の小さな手には持ちづらい)
香りの記述がひかえめですが、それによって話はスマートにサクサク進み、一番最後の表現が生きてきますよね。とてもきれいだなあと思いました。
以下はちょっとした思い付きなのですが、「探すが見つからず、・・・(中略)・・・困った顔を見合わせている」の二文を鋭く超リアルに、そしてそれをキュッと引き締めて表現してみるという手法はいかがでしょうか。電車のいじわるで香水が手からすり抜けた→あわてて目で追ったがどこにもない→パニックで視野は狭くなり同じ所ばかりに目が行ってしまう→涙で視界がぐちゃぐちゃに揺れ、周囲を飛び交う大人の声は遠く、のどが熱くて言葉を発せられない→自分は下を見ているがなぜか大人たちの表情が見えた・・・といった内容をイナズマが走り抜けるように激的に表現したら、ショパンの『別れの曲』みたいな運びになってそれも素敵かなあと思ったんです。
<香りの2>さん 『BOUDOIR』
こちらも本当は選びたかった。この「都市」に“匂い”があれば色濃さがより誇張されると思いました。その上で、「ベロアのソファ」といったヴィヴィアン的装飾をおびた言葉が強い意味を持ってほどこされていたら、ささもと賞に選ばせていただきたかった…。(ガッチリつくりこんだ世界が私は好きなもので)
<香りの14>さん 『レールデュタン』
3つに渡って、それぞれ「時が流れ」ている工夫が面白いと思いました。もしもラストの寂しさを強調したいという時は、ボリュームを1>2>3というふうにデクレシェンド構成に組んでみても良いと思います。
こまかい点ですが、「香水の名前の様に時が流れ、」という表現がそのまますぎて説明っぽくなる恐れがありますので、すこし変化させて内容を膨らませるのも面白いと思いました。たとえば(このフレグランスのボトルにある)翼を広げた鳥に時空を旅させて、その「時空の翼」でもってお話をつないでみるとか。(おもいっきり個人的などぎつい趣味ですけど・・・)
今の時代には見られない名香について書かれているので、せっかくですから「レールデュタンでしか出せない色」をより強めると、作品にもっと力強さが出ると思いました。
<香りの8>さん 『ももの花』
<香りの13>さん 『ナルシスト』
<香りの22>さん 『Remember ME』
こちらの方々は小説ならではという点でも面白いと思いました。
最後に…
季節の花やリメンバー・ミーについて書かれた方がたくさんいらっしゃいましたね。(<香りの18>さん『キンモクセイ』もおもしろかった)
リメンバー・ミー他、どのフレグランスについても同様ですが、その言葉(香水名)の意味にこだわらずにもっと奔放に書くのもちろん楽しいと思います。ただしその場合は「香水によるテクスト」感がどうしても必要になってくると思うのです。(…ディスクール?)つまり香水自身が人間の身体を介してペラペラと語り出すような、イタコさんのような。それもなく香水からあまりにもかけ離れた内容になってしまったら、ただの小説になってしまいますからお題から逸して残念です。
今回、ご自身になじみのないフレグランスをテーマに選ばれた方もいらっしゃると思います。それもそれでひとつの物語として独立しうると思うのですが、せっかくササモト賞というものを設けていただいたので、私のほうでは香りが匂い立つ作品、もしくはそのフレグランスの個性を匂い立たせることに成功した作品を選ばせていただきました。




